女装漫画コラム「女装少年の系譜 」【第一回・後編】
6、80年代後半から90年代前半の混沌とした動き
1988年に高橋留美子氏による『らんま1/2』が登場し、世界的に大ヒットした。
主人公の早乙女乱馬(らんま)は、「水を被ると女に、お湯を被ると男になる」という設定で、女装ではなく性転換キャラではあるが、女装キャラ好きの間でも彼(彼女)に憧れる人は多く、性転換モノでありながら、女装文化の歴史を語るにおいて外せない作品となっている。
ひばりくんの直前にコロコロコミックで『ヒロインくん』という少女になった少年の話が連載されているが、『女装』よりも『女そのものになる』ほうが一般には受け入れやすいということなのだろうか。
『らんま1/2』の後、らんまのからの流れとは考えづらいが、急に女装少年が主人公となる作品が次々登場する『まるでシンデレラボーイ』『♂ティンクル2アイドルスター♀』がそれだが、残念なことに両方ともヒットには至らなかった。『GTO』の大ヒットで、巨匠の貫禄もある藤沢とおる氏による『艶姿純情BOY』もこの流れにある。『艶姿純情BOY』の連載初期は、ひばりくんの影響を感じさせる。スラップスティックなラブコメだったが、主人公の女装美少年、茜屋純が後半、芸能界入りする展開になる。
この三作品に共通する点は、主人公は完全に性的に男性で、好きな女の子のために努力して、最終的に結ばれる点が挙げられる。
主人公の性差がはっきり語られるようになったのは、女装系漫画からニューハーフ文化の影響が抜けてきたことの証明だろうか。と思いきや『おカマ白書』(1990~)のように、そちらにどっぷりつかりこんだものもあるのが奥の深いところだろう。
二丁目系のオカマ文化をリアルに描写し、それが故にクレームがついたことでも有名。
主人公の名前が「岡間」というところから、ひばりくん系のギャグラブコメになると思いきや、主人公がずっと想っていたヒロインのミキと両思いになるだけでなく、自分自身の女装姿に恋をしてしまうなど、後半は生々しい展開になって読者を驚かせた。一巻からの展開の変化に驚くが、作者が後に『殺し屋1』などを書き、社会の暗部、人間の精神の闇を浮き彫りする作品を続けた作家、山本英夫氏によるものだと思うと納得できる部分が多い。自己愛、完全なノーマルのはずが言い寄られて男性に惹かれてしまう、などつっこんだ描写が多く、この時期ここまでの描写をしたことは、改めて評価するべき部分はあるのだろう。
余談になるが『艶姿純情BOY』の次作『湘南純愛組』の23巻で主人公の一人、鬼塚英吉(後の『GTO』でも主人公を務める)がニューハーフの少年と恋に落ちる話を描いている。美しい話なのでご一読をお勧めする。
1990年には奥浩哉氏の『変』も登場している。この作品に登場する美少年「佐藤ゆうき」は常時女装者ではないが、ノーマルであるのにしばしば強制女装させられ、これに萌えた女装漫画ファンは多い。特に1巻に収録されている、中編の『へん』は物語としての評価も高い。
1992年には、ひばりくん以来のアイコンになりえたキャラである『バーコードファイター』(1992~1994)の「有栖川桜」が登場する。彼は正ヒロインでありながら、実は男であると途中で明かされるのだった。しかも、幼年向け漫画誌であるコロコロコミックに登場したのだ。
桜は、途中で設定を変更した、など奇をてらった訳ではなく、当初は第一話ですでに男であることが明かされる予定だったが編集部との話合いで後に回されたという。
桜は女でありたいと常に思っていて、主人公の虎堂烈に恋をしていることを隠さない。また、烈のライバルの阿鳥海(男)に「男の桜ちゃんが好きなんや!」と激しく告白されるが、烈への想いゆえにそれを断っている。
作中では、男子トイレにいくのを嫌がったり女子更衣室を使うなど、女性として行動し、女性になることを望んでいるが、2004年に復刊された版の第一話に収録されるはずだった没エピソードが収録されており、そこでは桜が男子風呂に自ら入ってきている。このあたりの大事な設定となる部分に、ブレとも言えるキャラの違いがなぜ生まれたかは作品内から読み取ることは難しい。
桜は後に『アナルジャスティス』(フランス書院からコミックス発売)などに登場し、少年時代のことを語るが『アナルジャスティス』がかなり異色のHマンガで、『バーコードファイター』の最終話後に起きた世界大戦で、世界が変容し「ふたなりだけが集まった学校」ができている世界観でのH要因の一人として登場しているため、バーコードファイター登場時とは印象が異なる。
小野氏は1994年に発行された同人誌『この本を見ろ!Vol.10』でのロングインタビューにて「そういう趣味ないんですよ。ぜんぜんっないんです」と女装美少年好きを否定しているが、有栖川桜のエロ同人を書いたのを境に、少年漫画家から成人向け漫画に活躍の場を移していく。成人向け作品上連雀三平の筆名を使い、「ショタ」「ふたなり」「女装」が活躍する作品が多く描かれ、現在では「おちんちん漫画家」の異名をとるようになっている。ファンを途惑わせているが、
2008年に単行本となった『わたしを有明へつれていって!』でさえ男性器への徹底した描写が行われており、やはり好きなのでは? という疑念は、筆者ならずとも、誰が考えても消えないのではないだろうか(笑)。
7、ローティーン少女漫画誌に起きた動き
さて、幼年向け漫画雑誌で桜がインパクトの残した後、それに比べてもさらに大きな動きが起こる。少女漫画誌での常時女装美少年ヒロインの続けての登場である。
集英社の少女漫画雑誌『りぼん』に吉住渉による『ミントな僕ら』(1997~2000)、小学館の『ちゃお』から1999年、富所和子作の『ライバルはキュートBOY』が、さらに同じく小学館から、少女漫画家やぶうち優による、『少女少年』(1997~2005)がなんと(少女漫画誌ではないが)『小学五年生』において開始、長期連載となり、女装作品好きを驚かせた。特に『少女少年』は、Ⅰ~Ⅶまでは、一年ごと、一年ごとに主人公が交代しタイプの違う女装少年が活躍する。
どれも「女装少年がアイドルになって、芸能界で活躍する」という展開は同じだが、それぞれの主人公が女装する理由は「申し込み時に間違えられて」「逃げた人気アイドルとそっくりなので身代わりに」「自分のかわいさを知っていて芸能界デビュー前からレディースディを利用していた」などさまざまなタイプがいるなど設定も趣向が凝らされており、7年(Ⅰ~Ⅶ)と、『少女少年~GO!GO!ICHIGO』をプラスすると、通算で8年にも及ぶ長期連載となっている。
現在20代前半の女装子はこれらのローティーン向け少女漫画の影響を受けた者も多いようで、この時期は少女向漫画が、女装キャラの歴史をつないでいたのである。
時代的に小学館、集英社からこういった作品が出て、ある程度ヒットしたということは、女装という文化が、偏見の少ない低年齢層のうちに認識されることにつながり、女装文化の裾野を広げたのかもしれない。
1999年には、週刊少年ジャンプに珍しく女装美少年キャラが登場している。かずはずめ氏の『明稜帝 悟桐勢十郎』のジャンプコミックス7巻から参戦する「御幸鋭児」がそれで、女装理由は幼少時に父から虐待を受け「女の子なら……毎日気を失うまで殴られなくてすむんだ……」と考えたのがきっかけであるよう。容姿・女らしさを兼ね備え、かわいいだけでなく強さ腹黒さを持ち合わせた魅力的なキャラだが、あまり有名でないのが残念である。以後、週刊少年ジャンプで常時女装キャラは2002年に開始する叶恭弘の『プリティフェイス』まで、メイン級としては現れない。
また、1990年代後半といえば、メジャーな流れの外ではあるが、1996~1998年に『ロミオ』『厨子王』など“男性向けショタ本”ブームと呼べるような、BL系アンソロジー本が立て続けに創刊、人気を博し、その中で女装も多く扱われていたことは、後、アークシステムワークス社の開発による格闘ゲーム『ギルティギアイグゼクス』に登場する女装美少年、“ブリジット”の登場によるブレイクの下地を作っていたが、これは長くなるために次「回以降に譲ることにする。
繰り返しになるが、1980、1990年代は、強力なキャラ、作品は数多いが、点で終わってしまい、大きな流れを起こすことはできなかった。ブームと言えるような大きな変化は、やはりさまざまなイベントが起きた、2002年の到来を待たなければならない。
(完)
「女装少年の系譜 」第一回……メジャー漫画・2000年編
文・来栖美憂
【前編】
1、「男装」モノは女装モノよりはるかに早く市民権と人気を得ていた!?
2、同性愛の延長としての女装
【中編】
3、ひばりくんの登場は、「流れの発生」ではなく「衝撃」
4、バイプレイヤーとしての女装者
5、80年代のキャラクターが残したもの
【後編】
6、80年代後半から90年代前半の混沌とした動き
7、ローティーン少女漫画誌に起きた動き
【註釈】

















